第13回 頚部腫瘤(しこり) 甲状腺の病気について
2026年5月29日
首のしこりはリンパ節等の他に甲状腺の病気があります。
ポイント
✔️甲状腺は生命維持に必須のホルモンを分泌する。
✔️甲状腺のしこりは超音波スクリーニング検査で約20~30%、がんは約0.5%発見(文献によりばらつき有り)。
✔️甲状腺のしこり(結節性甲状腺腫)の内、8割以上が腺腫様甲状腺腫(良性疾患)。悪性腫瘍は10%前後である。
✔️悪性腫瘍の90%は乳頭がんであり全般的に予後良好である。
✔️痛みを伴う甲状腺の病気は急性化膿性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎、甲状腺腫瘍の急速増大、橋本病の急性増悪がある。
甲状腺について
甲状腺は首の正中下方、気管に接する部位にあります。甲状腺からホルモンが分泌され心臓や脳機能作用を調節し、また肝臓や骨、消化管、腎臓、血管細胞、褐色脂肪細胞に作用して代謝調節を行います。さらに皮膚にも作用します。つまり生命維持に必須のホルモンが分泌されます。*1
甲状腺腫瘤の頻度は
超音波スクリーニング検査による甲状腺結節の発見頻度は6.9~31.6%の報告あり。*2 又、森谷によると超音波検査で甲状腺腫瘤(結節)の発見率は18.55%、癌の発見率は0.49%です。*3
診断手順
触診又は何らかの検査で甲状腺腫瘤を指摘。
①問診:家族歴、既往歴、放射線被ばく歴(甲状腺癌発症のリスク因子)の聴収
②血液検査:甲状腺ホルモン等
③超音波検査
④穿刺吸引細胞診
クリニックでは①・②を。その後、高次病院で③・④を行う事が多いです。必要に応じて高次病院へご紹介いたします。
甲状腺腫瘤について
●良性腫瘤
主に濾胞腺腫、腺腫様甲状腺腫、のう胞、自律性機能性結節(Plummer病)など。頻度的に多いのは腺腫様甲状腺腫で、結節性甲状腺腫の8割以上を占める。*4 超音波検査で4cm以上は手術としている施設が多い。また、濾胞癌が疑われる場合(超音波所見、細胞診、サイログロブリン異常高値)、強い圧迫感、外見上の問題、縦郭内へ進展がある場合は手術へ。のう胞、自律性機能性結節はPEIT(経皮的エタノール注入療法)の有効性もあり。適応外や再発例は手術へ。*5
長年の経過観察で単発性結節のうち40%は消失又は縮小し20%程度が増大する。多発性結節(多くは腺腫様甲状腺腫)に癌が合併する頻度は10~15%。約10年で20%程度が増大する。*4

●悪性腫瘍
甲状腺結節の10%前後が悪性 *4
乳頭がん 甲状腺がんの内90%と最多。
濾胞がん 甲状腺がんの内5~7%
髄様がん 〃 1~2%
低分化がん 〃 頻度不明
未分化がん 〃 1~2%
悪性リンパ腫 〃 2~3%
未分化がんは極めて予後不良。高齢者に多くその他の甲状腺がんの合併又は既往が多い。*5
●悪性腫瘍の予後
◆乳頭がん術後20年生存率
年齢、リスク分類により違う。腫瘍の大きさ(1cm、2cm、4cm)や周囲への浸潤、リンパ節転移により分類。全般的に予後良好である。
術後20年生存率
55才以上 高リスク群 80.6%
〃 中リスク群 96.9%
55才未満 高リスク群 96.0%
〃 中リスク群 98.7%
年齢を問わず 低・超低リスク群 100% *3
◆未分化癌の生存率
甲状腺がんによる死亡の14~39%を占める。進行度により手術、化学療法、放射線療法で治療。1年生存率は5~20%。*6
その他:痛みを伴う甲状腺疾患
首の正中(前頸部)の腫れと痛みを訴えて来院される方がいます。明らかに甲状腺を触れる場合は以下を念頭に診察を進めます。クリニックでは超音波検査等、画像検査はできない場合が多いです。
●急性化膿性甲状腺炎
(原因)先天性の下咽頭梨状窩瘻(生まれつきのどにできた瘻孔=窪み)に感染が生じて発症。約95%が左側。
(症状)発熱、咽頭痛、嚥下痛、前頚部の発赤、腫れ、痛みが生じます。甲状腺の炎症により動悸や息切れ(一過性の甲状腺中毒症)が見られることもあります。幼少期より前頸部の炎症をくり返すエピソードは重要な情報です。*7
●亜急性甲状腺炎
(原因)先行するウイルス感染との関連や遺伝的要因の示唆はありますがはっきりとした原因は不明。40~50才代に多く男女比は1:5~10と女性に多い。甲状腺の炎症から甲状腺組織の破壊が起こり一過性の甲状腺中毒症を起こします。
(症状)上気道感染後に38℃程度の発熱と前頸部の腫脹、痛みあり。結節状の腫脹を触知。動悸、体重減少、発汗過多など甲状腺中毒症を呈する事がしばしばあります。*7
●甲状腺腫瘍の急速増大
腫瘍内で出血して急速に増大した場合は緊満感や痛みを訴える場合があります。*8 未分化癌の多くで急速な増大や痛みを認めます。息が漏れるような声枯れを認める場合、癌の反回神経への浸潤を疑い声帯運動を確認します。*9
●橋本病の急性増悪
原因不明。橋本病のうち40才前後、女性に多く発症前に甲状腺腫瘍が認められる事が多い。
(症状)発熱・甲状腺の痛みが生じ、しばしば再発を繰り返します。びまん性の甲状腺腫大を触知。永続性甲状腺機能低下症に移行する事が多い。*10
気になったこと
●放射線被ばく時年齢が15才以下である場合、甲状腺がん発症の危険性が5倍程度高まる。*4
●BRAFV600E遺伝子変異を有する未分化がん患者に対して、BRAF/MEK阻害薬を投与しその後手術を行う事で良好な成績が報告されている(20人、1年生存率94%)。*6
●甲状腺に痛みを訴え、亜急性甲状腺炎と診断。治療薬であるステロイド投与後に、仮に未分化癌と判明した場合病気の進行に悪影響を与える可能性はあるか?
→不明。未分化癌の場合、何もしなくても進行は早いため高齢者、腫瘤の急速な増大、反回神経への浸潤を疑う声がれ等を認めれば投薬にこだわらず高次病院紹介を考慮。
執筆:宝クリニック耳鼻咽喉科・院長 宝積 健
☺首のしこりが気になったら宝クリニックにご相談下さい。
引用出典
*1森昌明 甲状腺機能異常の診断と治療.日本内科学会雑誌 第101巻 第9号・平成24年9月10日
*2大山知代 笠木寛治 甲状腺腫瘍の疫学.日本臨床78巻 増刊号4(2020)
*3森谷季吉 甲状腺腫瘍の診断と手術.日耳鼻 専門医スキルアップ講座2023
*4吉田明 甲状腺腫瘍診療ガイドライン Medical Practice vol.28 no.11 2011
*5下出祐造 辻裕之 甲状腺腫瘤 JOHNS Vol.34 No.12 2018
*6森谷季吉 甲状腺未分化癌をどうみるか MB ENT No.298 2024
*7福原隆宏ら 急性化膿性甲状腺炎,亜急性甲状腺炎.JOHNS Vol.35 No6 2019
*8宮川めぐみ 甲状腺腫瘤. 診断と治療 vol.100-no.7 2012
*9塚原清彰 甲状腺腫瘍. 日本医事新報 No.5166 2023.4.29
*10志村浩己 橋本病急性増悪の病態と治療.Current Therapy2013
Vol.31 No.1