第4回宝コラム 2024年マイコプラズマ感染症が流行っているんです!

2024年12月10日

2024年は全国的にマイコプラズマ感染症が流行しております(IDWR過去10年との比較グラフ(週報) -マイコプラズマ肺炎 Mycoplasma Pneumonia-)。静岡県では9/30~10/6でマイコプラズマ肺炎が定点当たり1.2人と増加し、県感染症情報センターによると流行に入っているとの事です。静岡市では定点当たりの報告数が第44週(10/28~11/3)の2.5人から第46週(11/11~11/17)4.0人と増加しております。

ポイント
・2024年は全国的に過去10年で最多、静岡市でも過去5年で最多の感染者数。
・マイコプラズマ感染症は軽症で済むことが多いが強い咳が長引くのが特徴。
0-14才の感染が多いが成人でもかかる。家族内で感染することが多い。
1~2週間の通院治療となる事が多い。
・特別な予防方法はない。マスク、手洗い、うがい、アルコール消毒などを励行し感染者と濃厚接触は避ける。

●マイコプラズマ感染症とは
様々な菌腫がありますが風邪症状から気管支炎、肺炎を起こすのは肺炎マイコプラズマ(M.pneumoniae)という細菌です。主に鼻汁、唾液、直接の接触で感染します。学童期以降の肺炎の原因として重要とされていますが幼小児期でも上気道感染~気管支炎を起こす事がまれではありません*1。病原体分離例でみると7~8才にピークがあり*2家族内や学校でしばしば集団発生が起きます。

●症状経過、治療は
潜伏期は2~3週間と長く、発熱、乾いた咳、頭痛、倦怠感などの風邪症状で発症。解熱後も咳が長引く傾向があります。肺炎になった場合でも比較的症状は軽く、肺炎に至らない気管支炎症例も多いです。一方、重症化して入院治療が必要な症例もあります。5~10%未満で中耳炎、胸膜炎、心筋炎、髄膜炎などの合併も報告されています*3。マクロライド系抗菌薬の投与*4で比較的予後は良好ですが薬剤耐性菌もあり注意が必要です。

●過去と比較して感染者数は
静岡市ホームページ、感染症発生動向調査によると2024年のマイコプラズマ肺炎は過去5年間で2020年を抜いて最多の感染者数となりました。syuuhou_46.pdf

●当院での感染者数、年齢、症状、経過は
♦︎マイコプラズマ感染症が必ずしも肺炎に至るわけではないため公表データと同一に比較はできませんが、当院での9~11月のマイコプラズマ感染症は166例(9月2例、10月32例、11月132例)でした。

♦︎検査方法、対象
迅速検査キット(抗原定性検査)。流行前は他の疾患が否定され3週間以上続く咳がある場合。流行中は近親者や周囲にマイコプラズマ感染者や風邪症状の人がいて咳が強い(一度出だすと連続する、咳のため寝付けない、起きるなど)場合に検査を行いました。

♦︎感染者数

♦︎年齢分布

マイコプラズマ肺炎では1-14才が全体の6-8割を占め流行年は小児患者の割合が高い傾向がある、といわれております*5。感染のピークを確認するため0-19才は5才間隔、それ以上は10才間隔としました。当院では0-14才が70例(42%)、10-14才が27例(16%)と高い傾向にありました。意外と30代、40代の感染者(34例20%、20例12%)も多く家族内感染の可能性が推測されました。

♦︎肺炎、呼吸器系以外の症状は
症状が悪化し肺炎になった方は3か月間で1例。中耳炎が4例、皮疹が1例認められました。肺炎症例は抗生剤の内服4週間で治癒(他科でも治療)。中耳炎のうち経過が確認できた症例が2例。平均2.5週間で治癒。皮疹は1週間で消退しました。呼吸器系以外の症状として皮疹が10~20%、他に中耳炎、多型紅斑、スティーブンス・ジョンソン症候群、脳炎、ギランバレー症候群などの神経疾患、肝炎、膵炎、心筋炎、溶結性貧血、関節炎など多岐にわたると言われています*6。呼吸器系以外の症状(肺外病変)がある場合、大部分で肺炎にかかっている*1という意見もあり注意が必要です。
当院では肺炎症例に合併症はなく、中耳炎、皮疹症例で肺炎は認められませんでした。

♦︎治療期間は

治療経過が確認でき、治癒又は治癒見込みとした77例の治療期間です。風邪症状特に発熱、咳症状(連続したせき込み等)の改善を目安としました。平均1.5週間、1週間で治癒(51例、66%)が最も多いという結果でありました。しかし再診していない方も多く一概にすぐに治るとは言えないと思います。

●今後の感染動向、気になる事
♦︎晩秋~早春にかけての感染が多くしばらく流行が持続すると思われます。特別な予防方法はないため手洗い、うがい、アルコール消毒などの一般的な予防の励行と感染者との濃厚な接触は避けるようにしましょう。

♦︎薬剤耐性菌について
マイコプラズマ感染症の治療にはマクロライド系抗生剤等が有効です。しかし2000年以降、国内および東アジア地域でマクロライド耐性菌が頻繁に確認され2012年頃には国内分離株の80-90%がマクロライド耐性になっておりました。その後、耐性率は減少し2018~2020年の耐性率は30%代以下となりました。診療ガイドラインの普及や2016年からの薬剤耐性アクションプラン、ニューキノロン系抗生剤など抗生剤の適切な使用によると考えられます*5。ただ過去2012、2015~2016年のマイコプラズマ感染症が流行した年には耐性率の上昇が見られ、流行との相関も考えられます*6。今年も耐性菌が増加する可能性があり注意して診療にあたりたいと思います。

長引く咳、一度咳が出だすと止まらない、夜間に咳で起きてしまうなどおかしいな?と思ったら宝クリニックにご相談下さい。

文献
*1.マイコプラズマ感染症 黒崎知道 小児科診療 第86巻-春 増刊号2023
*2.マイコプラズマ肺炎とは 国立感染症研究所ホームページより
*3.IDWR2024年第35号<注目すべき感染症>マイコプラズマ肺炎 国立感染症研究所
*4.小児呼吸器感染症診療ガイドライン2022
*5.マイコプラズマ肺炎 2023年現在  国立感染症研究所ホームページより
*6.マイコプラズマ 大石智洋 医学のあゆみ 2024 Vol.290 No.8